言葉のさんぽ道

~気ままに写真とゲームの話題が更新されるはず~

遊びに行くよ

今週のお題「私の節電術」


夏、暑い日は決まってアイツの家に転がり込む。
転がり込む前に、一応礼儀として一通メールを送っておく。
『遊びに行くよ』
その1分後くらいにはアイツの家の玄関に到着している。家が隣同士の勝手知ったる腐れ縁というヤツなので、向こうの親御さんも何も言わない。
「こんちわ、勉強教わりにきましたー」
「はいはい、ゲームも程々にね」
さすがおばさん、よく分かってらっしゃる。
「またきたの。そんなにボコボコにされたいのかなあ」
居間でまったりとおばさんに出してもらったオレンジジュースを飲んでると、やや遅れてアイツが二階から降りてくる。対戦ゲームの戦績は言わせないでくれ。泣きたくなってくるから。
「うるへー。今日は負けないし」
ストローを咥えたまま口を尖らせてみても、アイツは意に介さない。クールなヤツだ。無言でテーブルの上にゲーム機をセッティングする。勉強はどこいったとか野暮なことは聞いちゃダメだ。
こんな感じでアイツの家で一日を過ごすのがオレの節電術。いやあ。持つべきものは寛容な隣人だね!


でもそういえばアイツの部屋に入ったこと無い。ふつー異性は部屋に入れたくないもんか。でも前遊びに行った時、風呂上がりで下着だけのアイツとばったり会っても「ああ、いらっしゃい」しか言われなかったしな。ちょっとショック。
ん?ショックって何でだ?


まぁともかく。そんな事に気づいてしまったら侵入しない訳にはいかない。勝手知ったる隣人のこと、留守中に襲撃してやることにした。
「こんちわ、勉強教わりにきましたー」
「あら、今丁度出たとこだけど」
はい、知ってます。
「あ、じゃあ部屋で待たせてもらいまーす」
「はいはい。Hな本見つけても見なかったふりしてあげてね」
おばさん、話が早くて助かりますが、ちょっとアイツが可哀想です。


そんな訳で久々にアイツの部屋に入ったけど、想像してたよりも綺麗でつまらん。あのクールなキャラでガサツな部屋というのを期待したのに。そしたら弱み握れたかもしれないのに。ちぇ。
で、ふと写真立てに目がいった。あれ、なんかオレがいる。運動祭のリレーで走ってるやつだ。この後壮大にこけて大ヒンシュク食ったんだよな。むうアイツめ、嫌味なヤツだ。人の恥ずかしい過去を持っていつまでもからかう気だなっ。
とか悪態つきながらも胸の鼓動が止まらない。顔が熱い。頭の中でぐるぐる「なぜ」が回ってる。あーもう。避暑にきたのになんで熱くならなきゃいかんのだ!
すると背後でガチャッと扉が開く音がした。ビクッとして振り向くと、アイツが立っていた。
「・・・見た?」
「・・・はい」
あまりにも真面目な顔で聞くものだから、ついこっちも正直に答えてしまった。やばい。アイツの顔が真っ赤になってる。あれ、なんかかわいい。いやでもオレの顔も負けずに赤いに違いない。多分頭にヤカン乗せたらすぐ沸騰する。間違いない。
アイツは「ふぅ」と溜め息ついて、なんか寂しそうに笑った。
「ごめん、そういう訳だからうちを避暑地替わりに使うのはもう止めてね」
なんだそれ。オレがそんなつもりで遊びに来てるとでも思ってたのか。いやそうだけど。でも何だか腹が立った。それに何か出入り禁止みたいになってるし。何故によ。
「わかった」
あまりにも腹が立ったからオレはついそう言った。アイツは瞬間傷ついたような顔を見せたけど、すぐまた作り笑いしてみせた。クールなヤツだ。それがまた無償に腹立った。だから言ってやった。
「わかったから、今度はオマエがうちに遊びにこいよ」
あれ。何だそれ。オレ何言ってんだ。うちにはエアコンもゲームもないというのに。
「やだ」
「へ」
「エアコンもゲームも無いの…痛い!」
とりあえずグーでパンチしといた。


それから今度はオレの携帯にメールがくるようになった。
『遊びに行くよ』
1分後にアイツが玄関に現れる。
「待ってて!用意できてない!」
部屋から大声で声をかける。
「良いよ適当でー」
アイツがクールに返す。ムカッ。一体アイツは女の子の身だしなみを何だと思っているんだ。まったく、誰のために慣れない事を頑張ってるんだと。ぶつぶつ。


そんな訳で、『遊びに行くよ』のメールは外出のお誘いに変わり、オレの節電術はもっぱらデートというものに変わってしまった。ん?あれ。これってデート、だったのか…?


※このお話はフィクションです