言葉のさんぽ道

~気ままに写真とゲームの話題が更新されるはず~

蕎麦。

僕はあまり蕎麦を積極的に食べない。
それほど美味しいと思わないからだ。
でもそんな僕でも好きな蕎麦がある。
それが神田の藪蕎麦だ。


今日、その蕎麦屋に久々に連れて行ってもらった。
一人で行けるように道もちゃんと覚えることにした。
僕はワクワクしていた。
久しぶりに食べる藪蕎麦の味。
しかし僕はその蕎麦がどんな味だったか覚えていない。
ただ、美味しくてセイロをいくつも注文したのを覚えている。
そして同時に少々の不安もあった。
お気に入りの店に久々に食べに行くと味が変わっていた事なんて、ざらにあるからだ。
願わくば、あの頃の味のままであって欲しい。
味そのものを忘れているのに、僕はそんな都合の良い事を思っていた。


店に着く。
記憶の中の風景が、コンパクトにまとまっていた。
この庭はこんなにも小さかったのか?
今更ながらに、随分と月日が経っていたことを感じさせられた。


店に入ると、独特の掛け声が響く。
「いらっしゃいませ〜〜」
変わってない。
僕は少し微笑んで、席についてメニューを見る。
僕はこの店に来ると決まって「セイロ」を頼む。
それがこの店の一番のオススメだからだ。
しかし今日はセイロだけでなく、他のメニューも頼むつもりでいた。
すると意外とメニューは豊富で、ツマミが充実している事を知った。
なるほど、最初にお酒を楽しみ、最後に蕎麦で〆る店だったのか。
前々日から胃が少々もたれていたのでお酒を楽しむことはせず、
鴨南蛮を頼むことにした。
蕎麦屋で僕が好きなメニューの一つだ。
それと、セイロ。これは一つのお約束。


ほどなくして、セイロと鴨南蛮が来る。
鴨南蛮はネギの甘みと鴨の深い味わいが楽しめた。
だが正直蕎麦との絡みはそれほど感じさせられず、感動するほどのものではなかった。
まぁ、これは人の好みによる所が多いだろう。
そして、セイロを食べる。
ここのツユは味が濃く、量が少ない。
なので器に少量入れ、蕎麦をツユにちょっとつけてズズッと食べるのが良い。
最初は何も入れず、そのまま食べた。


ズズッ


ツユと蕎麦が絡み合い、豊潤な味わいが口腔に広がる。
ああ、うまい!


ネギを少々入れ食す。


ズズッ!


旨い!


ネギとワサビを入れる。


ズズズッ!!


美味い!


あっというまに、平らげた。
だが胃が口が舌が脳が、物足りないと告げる。


セイロおかわり!


昔食べた味かどうかは解らない。
だがそこには、僕の美味いと感じる味が変わらず居た。


印象的だったのは、オーダーを取り仕切っている女将さんらしきお婆さん。
番台のような所に座り、背筋をシャンと伸ばし厨房やお客さんを見渡している。
リンとした雰囲気で、目は厳しく、だがお客さんに対して声は柔らかく、優しい。


あのお婆さんが健在なうちはきっと藪蕎麦の味は変わらないだろうと思わせてくれた。
お婆さんに敬礼。
そして、感謝。